2/3「病院坂の首縊りの家」横溝正史原作・市川崑監督 Pt.2

「病院坂の首縊りの家」横溝正史原作・市川崑監督 Pt.2

 

悪魔のような、2人の男。2つのパターン。

◆長編ブログPt.2【第2回】/全3回

さて、「病院坂の首縊りの家」映画版のストーリーにおける、2人の悪い男とは、五十嵐猛蔵と法眼拓也です。

五十嵐猛蔵とはまた、いかにも悪そうですよね。彼は、幼かった女の子を連れて法眼家に戻ってきた(『でもどり』などと呼んでましたよね)法眼家の当主である法眼鉄馬の妹千鶴を、鉄馬当主に取り入って、泣き落として、無理やり結婚して、法眼家に入り込みます。

法眼家は病院を経営している旧家で、いわば地位も名誉も財産もあるお家柄ですから、五十嵐猛蔵の魂胆は、はっきり言って見え見えです。そんな旧家に出戻ってきた、子連れの女性の存在は、当時も今も、立場的に弱かったことでしょう。

市川崑監督 病院坂の首縊りの家 入江たか子 その役は入江たか子が演じていました。「わたしが、あなたを連れて猛蔵の嫁になったことがすべての間違いだった・・・」と悲嘆にくれる台詞があります。今の方たちは、入江たか子が誰だかをご存じないでしょうね。Sozoもリアルタイムには知らないのです。元子爵(華族)の出身で、昭和初期、「銀幕の大女優」とは彼女のためにある言葉でした。日本版グレタ・ガルボのような往年の大女優です。

さて、当時、法眼家には、跡取りになる男の子はいませんでした。法眼家の当主法眼鉄馬が愛人に産ませた子どもが唯一の男の子で、その子がもう一人の悪い男、法眼拓也です。

法眼家は旧家ですから、当主はこの拓也に法眼家を継がせたかったのですが、愛人の子どもなので、世間体があり、ままならずにいたところを、猛蔵は、悪魔のような策を用いて、見事にやってのけます。一見、当主鉄馬のためのようですが、魂胆は、法眼家の財産の事実上の実権を握るためです。

猛蔵は、当主鉄馬の愛人の子どもである拓也が、自分とは逆のタイプで、生活力というか、男らしいバイタリティに乏しいタイプの男だとすぐに見抜いたのでしょう。おそらく当主鉄馬もそういう弱い男だったに違いありません。

猛蔵という男は、相手が自分より力の面で劣っていると見抜くや、すぐに相手を支配して、意のままに相手を動かすタイプの男です。おそらくこのような男は、初対面の時に、野性的な感覚で、相手の弱点を見抜いたことでしょう。

鉄馬も息子の拓也も、猛蔵には勝てない、勝てないならば支配された方が何かと楽であると、同じく動物的感覚ですぐに悟ったに違いありません。そういう意味では、強者も弱者も、同じステージにいるのです。同じ群れという方が分かりやすいでしょうか。動物としての雄の群れです。

猛蔵は、その拓也に法眼家を継がせるために、なさぬ仲の自分の娘(妻の連れ子)と拓也を、むりくり結婚させようとします。

市川崑監督 病院坂の首縊りの家 ガラス 娘がそろそろ女学校を卒業しようかという頃、猛蔵は二人を結婚させることを妻と娘に詰め寄ります。拓也と娘はいとこ同士です。娘は猛蔵に、結婚を決めた彼氏がいるので、拓也に嫁ぐのは嫌。好きな人と結婚させて!と反抗しますが、猛蔵は頑として聞きません。

「おんなは男に守られて幸せになるんだ。黙って男の言うことを聞け!許さん!絶対に許さん!」

猛蔵の台詞です。いまこんなことを言ったら、それこそ女性は炎上することでしょう。ある意味それも正しいかも知れないと、Sozoは思っても、口が裂けても言えません・・・。Sozoは猛蔵のような動物的な男ではないですが、弱くもありません。でも、女性にはめっぽう弱いのです。

そして猛蔵は、世にも恐ろしいことを決行します。これは、言えません。金田一の言葉です。「この乾板に、奥さんの女としての一生が封じ込められてしまったと言っていいでしょう」

時は経ち、拓也と娘は猛蔵の思わく通りに結婚して法眼家を継ぎ、拓也はこれまた猛蔵の見立て通りのひ弱な男で、猛蔵の娘が法眼家の実権を握り、法眼家はますますの発展をします。二人には由香里という女の子が出来ました。由香里は何一つ不自由なく甘やかされて育ち、心底、我儘で我の強いビッチなお嬢様に育ちます。

拓也は、そもそも、弱い男です。さらにもともとは愛人の子ども。法眼家の血を継いでいることは確かですが、彼のお母さんは拓也が婿入りするときに、手切れ金を渡され、それっきり二度と拓也に会うことはありませんでした。

妾の子が法眼家に入れてもらったことだけでも感謝しろ!と、猛蔵に言われ続けてきたのでしょう。経営には何もかかわらず、和歌や俳句などを作って、冬子という薄幸のシングルマザーを愛人にして、冬子の住む安普請の借家を、「風鈴の家」と呼んで、そこで、小雪という女の子を愛人に産ませます。

市川崑監督 病院坂の首縊りの家 桜田淳子 小雪 拓也は、妻とは由香里が生まれてからは、セックスレスだったのでしょう。愛人の存在は取り立てて隠してはおらず、妻から、小雪はどんな子か、一度会わせてもらえないかしらと聞かれたときに「あれは、呪われた子だ・・・あんな顔に生まれてきて・・・」とだけ答え、妻には会わせませんでした。

それはなぜか・・・。これも言えません。ただ、由香里と小雪は、桜田淳子が1人2役を演じていたことだけを申し上げましょう。

市川崑監督 病院坂の首縊りの家 桜田淳子 由香里 つまり、二人は瓜二つ。由香里と小雪の父はどちらも拓也です。だからと言って、双子のように瓜二つにはならないでしょう。

拓也は、何もかも知っていて、ひ弱で役立たずの妾の子の役に甘んじていたきらいがあります。

Sozoが拓也も猛蔵に劣らず悪い男だという所以がここにあります。拓也は、もっと早い時期、彼が男として自分を確立させるときに、その戦いを放棄してしまったのです。

そこには猛蔵という、強烈な雄の存在があったことは否めません。

猛蔵の娘に婿入りして、法眼家の当主になることは、拓也の器を大きく超えていました。猛蔵の娘=妻への愛情もなかったでしょう。美しい女性ですから、セックスは勿論可能でしょう。しかし、それも、拓也の器ではありません。

拓也は、その段階から、無関心という名の仮面を被ってしまったのです。

拓也は猛蔵とは逆で、熱くなることもなかったでしょう。愛人の冬子に対しても、恐らく、そのような態度で、気まぐれに風鈴の家を訪れていたきらいがあります。冬子との間に小雪を作っていますから、性欲がなかったわけではありません。猛蔵をまねて、激しいセックスをしたことがあったかもしれませんが、これも気まぐれで、決して冬子に対しても、口では、ここが本当の僕でいれる場所だよ・・・などと言いつつも、自分をさらけ出して見せることはなかったでしょう。

本当は、見せる自分がなかったのです。拓也はそんな男なのです。

続きはこちら PT.3へ

※画像はすべて、「病院坂の首縊りの家©1979東宝株式会社」よりの一場面です。

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