88才になる母が白内障の手術のために2週間入院して、毎日見舞いに行ってます。
当の母は非常に元気なんだけど、心不全の父がなんせ母のそばにいたいらしく、毎日午後1時には、見舞いに出かける準備も整い、玄関で俺を待ってるんです。
それから、6時の夕食まで一緒にいて、家族3人で夕食を食べてから帰宅するのです。
つまり、俺は、毎日、6時間も病院に居なくてはいけない。病室はベッドだけで辛気臭いので、俺はいつも誰もいない談話室のような場所で、PCで仕事をしています。
父はというと、母のベッドのそばの椅子で居眠り。
母も退屈らしく、居眠りしている父を置いて、時々、俺が仕事をしている談話室のような場所にやってきます。どっちが病人だか分かりゃしねえ。
でも、そう先も長くないだろうし、好きなようにすればいいと思い、放ってます。
病院は高台にあって、玄界灘や九州の山々、そして関門海峡が見えて、素晴らしく景色がきれいです。
このような景色のいい場所に高齢で入院していると、色々と考えることもあるだろうなあと想像してしまいます。
母と2人だけの病院の談話室で、母がぽつりと言いました。
「あんた、香水をつける?」
「病院にはつけてこないけど、普段はつけるよ。ずっとシャネルだよ」
「私は、ずっとゲランのミツコよ」
「ふーん」
「若い時、銀座三越で買ったのよ」
「ふーん」
「ねえ、東京に帰る時に、あなたの香水ちょうだい?」
「なんで?」
「ベッドの枕元に置いておくわ。途中のでいいから」
「・・・いいよ」
うーん。なんと返事をすればいいのか分からない。「俺と一緒にいたいのか?」なんて、お袋には言えないし。なんだかさみしいなあ。そういうことを考えているのね・・・と、黙ってしまった。
上空をトンビが飛んでいる。
そういえば、ピレネー山脈に登った時に、1羽のワシが俺を狙って飛んでいたなあ・・・と、何故か思い出す。
なんでこの場面でピレネー山脈を思い出すのか、いぶかりながらも、記憶をたどる。
やっとの思いで下山して、ぼろぼろになって最後にたどりついた峠のレストハウスに、ちっちゃな汽車が走っていた。フランス人が喜んで、”le petit train”(ちっちゃな汽車という子どもの歌)を歌っていた。
あ、これは、リタ・ミツコの曲だ。ミツコ・・・ゲラン。母の香水!
連想ゲームか?
なんとも複雑な記憶回路です。頭の中をリタ・ミツコのPetit Trainが流れています。なんとなくふざけた曲です。大好きだけど、この場面には全くそぐわないです。
母が何か言ってるけど、全く耳に入って来ないし。
そぐわないかな?いや、まてよ、これはリタ・ミツコが亡くなったお父さんに捧げた歌だった。
こういう歌詞だった。
Le Petit Train/ Les Rita Mitsouko
翻訳/俺
ちっちゃな汽車、昔みたいに走っておくれ。
俺は、答えることができないけど。
誰もあそこで起こることは知らないし、
誰も見なきゃいけないものを信じてはいないけど。
ちっちゃな汽車、お前はどこに向かってるの?
死への汽車、そこで何をしてるの?
また、やってくるの?
ここをまた、通過するの?
俺は、答えることができないけど・・・。
おかあさん、シャネルの香水あげるから、まだ、死なないでね。
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白内障の手術入院長いね~
私のママにこの話をしてみました。ママもMITSUKOやらCHANELの5やらブルガリとか色々愛用してるから
ママもお母ちゃん(お婆ちゃん)が肺の病気で自分の身体が思う様に動かなくなってきている時に似た様な事を言われていたよ♪やっぱり普段は離れてるから心細いみたいだね~開封前の物ではダメなんだよね~
寂しくなるけど…みなどこも同じだね~
忘れないで今日母ちゃんの部屋にCHANEL置いといてあげて(^o^)/
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泣いてしまいました。
なんか映画のワンシーンのようです。
親子って離れると恋しいくせに、近くにいると喧嘩するんですよね。
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コメントありがとう。母もやっぱり女性で、こういう感性は共通なんだなあとおもいました。はい、シャネル置いて帰ります。
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>JUICYPOPさん
本当に。あなた、怒りっぽいわねと言われます。優しくしよう・・・。うーん、努力します(笑)
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私も山口出身なんです。
実家にずっと帰れずにいます。
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母が歳をとって弱くなってるのがわかる。弱さを見せなかった母が時々、私の前では、子供の用に無防備になってるのを見るのが切ない。 いつまでもあなたの子供でいさせて!とも思う。 「あなたの使ってる香水を置いていって」 なんて、もう涙です。 喧嘩したり、つっかかったりした事を母(私の)は許してくれるでしょうか? 甘えるのはあなたの番だと。
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>monikaさん
素敵なコメントをありがとうございます。『いつまでもあなたの子どもでいさせて』お気持ちはとてもよく分かります。いつかは別れが来るのですが、自分に問いかけた時に、まだお別れする準備ができていないことに気づいたりします。あなたの子どもでよかった・・・と、なかなか言えないものですが、俺も言ってみますから、monikaさんも一度言ってみましょうか